火星蠍座入りだから燃えてほしい

トランジット

12月9日に火星が蠍座に入るらしい。
古典占星術の世界では、火星は蠍座でめちゃくちゃ活性化する。
つまり、蠍座に入った火星は水を得た魚のようにのびのびと…はしないんだな、それが。

火星はエネルギーや獲得欲求の象徴だ。
ゆえに蠍座でめちゃくそ元気になった火星はエネルギードバドバの獲得欲求ギンギンな状態である、と考えられる。考えられるわけだけど…これ、怖くないですか?
コントロール不能なほとばしるエネルギー、寝ても覚めても「あれがほしい…ほしい…」と渇望し続ける状態。ものごとがなかなか思い通りにいかないのに、蠍座火星ブーストで欲望にガンガン薪がくべられていくものだから、感情も頭脳もオーバーヒートして脳血管がブチッと破裂してしまう。結果、キレて暴れて燃え尽きて灰になってしまうことは想像に難くない。
また、キレることなく静かに灰と化すひとも少なからずいるだろう。もしかすると、サイレント灰化のほうが多いかもしれない。暗い欲望が発散されることなく、人間という器のなかでじりじりと加熱していき、ついには炎を上げることなく内部から灰になってしまうのだ。

そんなわけで、蠍座が火星に入ったからには大々的に炎上、またはブスブスと不完全燃焼を起こして死ぬ可能性があることを念頭に置いておきたい。まあ、人間死ぬときは死ぬからそんな気にしなくていいかもしれないけれど。
むしろ、蠍座火星なんて一度徹底的に燃え尽きてなんぼのもんだ。同じ空の下で生きとし生けるものがもだえ苦しむ時期なのだから、みなさまにも安心して無様に滅んでいきたいものである。闇のオタクならば、とりあえず最後はすべて灰になればOK、むしろ激萌え、どんとこい!みたいなところもあるだろう。
そして蠍座といえば人間関係なので、自分ひとりだけで炎上するとはかぎらない。他人を巻きこんで大火事を起こして炎の海のなかで高笑いをしながら死ぬかもしれないし、だれかに火をつけられて踊り死ぬかもしれないのだ。憎いあいつに火をつけることも、蠍座火星の時期なら容易だろう。自分にも火が燃え移るかもしれないけれど、それも承知の上で決行すると気持ちいい。自ら火だるまになって相手に特攻するものありだろう。なお、物理的に炎上はしないよう、火気の取り扱いには充分ご注意ください。

蠍座火星の時期に発火する際には、怒りや嫉妬といった負の感情がキモとなる。そして、蠍座的な負の感情は結構な確率で他者の存在に由来している。人間の悩みの主原因は人間関係らしいし。
思い通りに動いてくれない他者。自分の足を引っ張り、行く手をはばむ他者。自分よりも圧倒的に有能な他者。特別で幸せそうな他者。
相手に善意があろうと悪意があろうと、相手が自分に関心を持っていようとなかろうと、どのみち相手に対峙したことが原因で苛立ち、気がつけば無限にハンケチーフを噛みちぎっていた―――多くのひとが経験しているのではなかろうか。憎悪や妬みのような苛烈な感情を抱きにくいタイプであっても、他者の才能を前にしたときに「私は…まだまだだ…」となんとなく落ちこんだりすることもあるはずだ。そうであってほしい。劣等感からくる焦燥感もまた、蠍座的ななにかなのだ。
こんなふうに他者との摩擦によって生じた炎は、時と場合によってはすべてを焼き尽くす。今まで積み上げてきたものが燃えに燃え、自分自身の好きなところも嫌いなところも、輝かしい過去も忌むべき過去も、だれかに託された希望もかけられた呪いも、なにもかもが真っ白な灰になる。燃えている間は苦しいだろうが、灰になってしまえばきっと今まで以上に楽になるはずだ。守るべきものも、背負うべきものも、もうなにもないのだから。まさに身軽で気軽。灰ならば風に乗って遠くまで飛んでいけるだろう。そうやってできた地層が関東ロームである。

しかし「蠍座火星だ! よし、燃えるぞ!」ではあまりに芸がないというか、蛮族すぎるような気もする。せめてパンツと靴下くらいははいて、上品にティーでもしばきたいものである。
蠍座といえば「他者の価値の利用」だ。
自分にないものを手に入れるため、相手にうまいこと取り入ろうとあの手この手を尽くすのもよいだろう。取り入るとかまだるっこしいことなんてしてらんねえ!という方は、雄叫びを上げながらパンツを破き捨てて、必要としているものを相手から略奪するべくドッタンバッタン暴れまわるのもいいと思う。手段なんて選んではいけない。手を汚すことをためらったら、逆に相手に殺られるかもしれない。
そう、死にたくなかったら容赦なく燃やすしかないのだ。なお、くれぐれも物理的な火気にはお気をつけください。

こんなふうに蠍座の火星はなかなかに壮絶だが、第三者視点で見るとなかなかドラマチックだ。つまり最高にして最狂のエンターテインメントなのだ。火事と喧嘩はネットの華だから、私も今からドキドキわくわくしている。
蠍座にはすでに木星もいて、すでにギンギンな火星にブーストをかけてくれそうな感じなので、ぜひ楽しんでいただきたいものである。